アイヒマン実験の結果でわかる人間の恐ろしい心理

アイヒマン実験の結果でわかる人間の恐ろしい心理について。皆さんの多くは会社や学校など何らかの組織に所属し、その組織における何らかの役割を担っているはずです。その役割を背負い行動しているあなたは、本当にあなたなのでしょうか?「アイヒマン実験(ミルグラム実験)」の紹介、そして組織における「役割」に隠された怖い一面をお教えしたいと思います。

 

アイヒマンとは?

アドルフ・オットー・アイヒマンは第二次世界大戦中、ナチスドイツが建立した「アウシュビッツ最終収容所」の所長です。

皆さんご存知のとおり、第二次世界大戦中、ナチスドイツはユダヤ人をはじめ、社会主義者や障害者、同性愛者などを強制収用し、殺害や非人道的な実験、強制労働を課し、これらは終戦まで延々と継続されたといわれています。

 

そしてアイヒマンはその職務を通じ、数百万の人々の収容所への移送指示にかかわった人物です。ドイツの敗戦後、ナチスの上層部の多くはアメリカ、イギリスなどを中心とした同盟軍に拘留されましたが、運よく海外に逃亡する事が出来た者もおり、アイヒマンはそのうちの一人でした。

アイヒマンはアルゼンチンで逃亡生活を送っていましたが、1960年、とうとうイスラエル諜報特任課モサドに拘留後イスラエルへ連行され、裁判にかけられることになりました。

この裁判は通称「アイヒマン裁判」と呼ばれ、世界中のマスコミはこぞってその裁判を報道しました。アイヒマンは最後まで無罪を主張し続けましたが、死刑判決を下され、1962年6月1日絞首刑に処され、この世を去りました。

 

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アイヒマンの評価

突然ですが、これをお読みになっている皆さんへ質問です。これまでの説明を読まれた皆さんは、アイヒマンが一体どのような人物であると思いますか?恐らく多くの方は「残虐非道」「血も涙もない冷酷な殺人鬼」「鬼畜」など、アイヒマンの人格に異常性を見出すでしょう。

しかし事実は皆さんの想像とは全く異なっていました。裁判にかけられているアイヒマンは殺人に喜びを感じるような異常者ではなく、むしろどこにでもいるごく普通の中年男性、つまり凡人だったのです。

この事実は「アイヒマンはきっと稀代の大悪党に違いない」と思い込んでいた人々に大きな衝撃をもたらしまし、そして同時に、「ごく普通の人間がなぜこのような非道を行う事ができたのか」、「どのような条件が普通の人間を大悪人に変えてしまうのか」という疑問を生み出したのです。

 

 

アイヒマン実験

1962年、アメリカのイェール大学の心理学者、スタンリー・ミルグラムはアイヒマンの一連の言動に疑問を抱き、ある実験を行いました。

その翌年1963年、アメリカの社会心理学会誌「Journal of Abnormal and Social Psychology」に投稿されたその実験は、後に「アイヒマン実験」または「ミルグラム実験」と呼ばれる事になります。

以下は当時の実験内容です

 

 

アイヒマン実験(ミルグラム実験)の内容

①新聞の「記憶実験の参加者募集」と嘘の広告を流し、20代から50代の男性を集めます。

②集まった男性を「教師役」と「生徒役(実際はサクラ、)」に分けます(これにより広告に応募してきた男性は全員教師役となります)

③教師役の男性(以下被験者)に被験者「問題を間違えた際のペナルティの体験」として45ボルトの電気ショックを受けさせます。

④教師役の男性(以下被験者)と白衣を着た博士役の男性(実際はサクラ、以下博士)を、電気ショックを与える機材の用意された部屋(以下部屋A)へ、生徒役の男性(以下サクラ)を、部屋Aに隣接した、椅子と電気ショックを受ける機材を置いた部屋(以下部屋B)に入れます。

 

なお、これ以降実験の終了までサクラと被験者が対面することはなく、両部屋の連絡はそれぞれの部屋に付属したインターフォンを通した者に限定されます。この際、被験者は武器で脅される、人質をとられるなどの肉体的、心理的なプレッシャーは与えられていないものとする。

 

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⑤全員が持ち場につき終わった後、被験者が2つのついになる単語を読み上げ、その後どちらか一方の単語を再び読み上げ、それに対応する単語を4択で問う。

⑥サクラが問題に正解した場合は新しい問題、問題に間違えた場合は電気ショックを行う。

 

電気ショックは45ボルトからはじめ、被験者はサクラが1問間違えるたびに15ボルトずつ上げていくよう指示される。電圧の調整盤は15から450ボルトまでのメモリがついており、一定の数値ごとに電気ショックが与える影響が記載されている。

なお、記載があるのは375ボルト、「危険で苛烈な衝撃」までであり、それ以降に記載はない。ただしこの電気ショック装置は偽物であり、実際に装置を使用したとしても、サクラに電気ショックは流れない。

 

 

⑦サクラは適宜問題を間違え、設定されたボルト数に応じた苦痛の演技を行う。

また、この声はインターフォンを通じ被験者に届く。

⑧実験の最中に被験者が実験の続行に難色を示した際は、博士が超然的態度で4回以下の通告を行う

  • 1回目「続行して下さい」
  • 2回目「あなたにはこの実験を続行してもらわなければなりません」
  • 3回目「あなたに絶対に続行して貰う必要があります」
  • 4回目「迷う必要はありません。続行して下さい」

⑨被験者が4回目の通告後であっても実験の中止を訴える、あるいは被験者が450ボルトの電気ショックを3回実行した時点で実験は終了となる。

 

 

アイヒマンの実験結果

実験前にイェール大学の心理学専攻学生を対象にした予測アンケートでは、電圧を450Vまで上げる人物の割合は平均1.4%、つまり非常に少数であることが予想されましたが、実験の結果はその予測を覆すものとなってしまいました。

事件の最中に困惑し、実験の意義への疑いを示す者は存在したものの、300ボルトを超えるまで実験を中止した者は一人も現れず、電圧を最大(450V)まであげたものは被験者40人中26人、つまり6割以上に上ったのです。

さらに被験者とサクラを同室にし、同様の実験を行った際には40人中16人、被験者がサクラに直接触れる事により電撃を与える実験では40人中12人の被験者が電圧を最大まで上げました。

 

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結論と人間の心理

この実験で集められた被験者は皆、一般的で凡庸な男性であり、つまり特別残酷な人間ではありませんでした。それにもかかわらず、彼らの半数以上は権威(博士)からの命令があったとはいえ、致命的であると認識している450V、電圧を最大まで上げてしまいました。

当然ながら、彼らの傍に博士が存在しなければ、被験者たちは冷静な判断力を発揮でき、実験結果は当初の予測に近いものになったかもしれません。人間は権威の影響下に置かれてしまうと、正常な判断力を奪われ、どのように残酷な命令であろうとも、それを遂行し得るのです。

 

そしてこれがナチスの影響下、つまり物理的な強制力が強力に働いている状況ならば、なおのことでしょう。つまりアイヒマンは特別に残虐な人物で合ったわけではなく、私達は皆アイヒマンとなり得ます。

この実験は権力化における個人の正義の実践の困難さ、そのような状況であっても冷静な判断力を保ち、「おかしい」「いやだ」と声をあげる事の重要性を示しているのです。