【学習の心理学】勉強や仕事以外にも応用できる

心理学の重要なテーマの一つに「学習」に関する理論があります。ここでいう「学習」とは、一般的な意味よりも広く使われるもので、「経験に基づく、比較的永続的な『行動の変容』」と定義されています。

例えば、勉強に限らず、スポーツがうまくなることも学習に含まれますし、一方で、人と話すときに緊張してしまう、いつも暴力行為で物事を解決しようとしてしまう、といった負の側面の行動の変容についても学習に含まれます。

学習理論は大きく分けて「連合説」「認知説」に分けられます。「連合説」は、外界の刺激と人や動物の反応が結びつくことで学習が行われる、という考え方です。「認知説」は、外界の刺激に対して、人や動物の認知の仕方の変化により学習が行われるとする説です。それぞれ、具体的に見ていきましょう。

 

勉強や仕事以外にも使える【学習の心理学】

条件で行動してしまう「レスポンデント条件付け」

連合説の一つで、最も古典的な理論になります。「パブロフの犬」というと、聞き覚えがある人もいるかもしれません。

そのパブロフが提唱した理論です。パブロフは、犬に餌と同時に光や音など特定の刺激を与えることで、やがて餌がなくても光や音の刺激だけで唾液を分泌するようになることを見つけました。

 

つまり、もともと備わっている刺激と反応の結びつき(ここでは、餌を与えると唾液が出ること)に対して、同時に無関係の刺激を与えることで、その無関係の刺激と反応が結びつくようになった、ということです。

新しい「行動の変容」が起こったので、学習したということになります。これを応用すると、特定の刺激に対して反応”しない”ようにすることも可能です。

 

これは「消去」と呼ばれ、たとえば、学校と恐怖感が結びついている子どもに対して、その結びつきを消去することで、恐怖感を感じずに学校に通えるようにすることもあります。

なお、「レスポンデント」とは、特定の刺激を与えることでしか生じない行動を意味しています。どちらかというと、「無理やり行動が引き起こされる」ようなイメージです。

 

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しつけで学習「オペラント条件付け」

こちらも連合説の一つです。先ほどの「レスポンデント」とは対照的に、刺激がなくても自発的に生じるような行動(オペラント)を形成する、という理論です。

スキナーという心理学者が、スキナー箱という装置にネズミを閉じ込めて実験を行いました。スキナー箱にはレバーがついていて、ネズミがレバーを押すと餌が出るようになっています。

 

はじめは、偶然レバーを押すことで餌を食べるのですが、次第にレバーと餌の関係に気づき、レバーを押す頻度が高くなります。

つまり、ネズミは「レバーを押すことで餌を手に入れる」という行動を学習したことになります。この実験の例だと、餌という「報酬」を得ることでレバーを押す頻度が高まります。これを「正の強化」と呼びます。

 

一方で、レバーを押さないと電気ショックなどの「罰」を与えるようにしておき、レバーを押したときだけ罰を与えないことで、レバーを押す頻度を高めさせることもできます。これを「負の強化」と呼びます。

これらを段階的に組み合わせて、複雑な行動をさせることを「シェイピング」といい、イルカの曲芸などでこの手法がとられています。

 

水族館などのイルカショーでは、芸のあとにイルカに餌を与えています。これが「報酬」となることで、イルカは正の強化を受け、たとえば「この手の動きのときはジャンプをすれば報酬がもらえる」というような学習がされるわけです。

「オペラント条件付け」は、「レスポンデント条件付け」のように、対象の意志などと関係なく学習するわけではなく、対象が自発的に行動を変えているところが異なります。

 

 

無駄な行動を減らす「試行錯誤説」

「オペラント条件付け」に似た理論ですが、試行錯誤によって学習が生じるとする理論もあります。ソーンダイクという心理学者が、ネコを箱に閉じ込め、箱の外側に餌を置いておきます。

この箱の中のひもを引くことで箱から外に出ることができ、餌を食べることができるようになっています。はじめのうちは、ネコは箱の隙間から手を伸ばしたり、箱をひっかいて壊そうとしたりします。

 

そのうちに偶然、ひもを引っ張ることで餌を食べることができます。この実験を繰り返していくと、次第に、手を伸ばしたりする無駄な動作が少なくなり、すぐにひもを引っ張るようになります。

試行錯誤を繰り返すことで、無駄な動作が減っていくような学習がされる、という考え方です。

 

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状況の認知を変える「洞察説」

こちらは認知説の一つです。ケーラーという心理学者が、チンパンジーを檻に閉じ込め、とても手では届かないところにバナナを置いておきます。

手元には短い棒があり、その短い棒で檻の外の長い棒を引き寄せ、その長い棒を使うとバナナが取れるようになっています。

 

はじめのうちはなかなかうまくいかないのですが、しばらく考えるようなそぶりを見せた後、一気に上記のやり方を実践し、バナナをとることができたということです。

つまり、先の「シェイピング」のような段階的な手続きは不要で、置かれた状況を総合的に”洞察”し、問題を解決する、という考え方です。この実験では、置かれた状況への認知の仕方を変えることで学習が成立しています。

 

 

経験から学習「サイン・ゲシュタルト説」

認知説の一つです。トールマンという心理学者が、ネズミに迷路を走らせる実験を行いました。ゴールに餌を置かずに何度か走らせてから、餌を置いて走らせると、迷路をすばやく走り抜けることができたということです。

つまり、目標(餌)がなくても、迷路を走った経験から学習していることが分かります。そのため、学習とは単純な刺激と反応ではなく、刺激についての認知が成立させている、と考えました。

これらの理論は、行動療法などにも取り入れられているものです。理論がすべてではありませんが、現在の学習理論の基礎となる部分ですので、覚えておくといいでしょう。

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