行動主義心理学を自分に利用?

行動主義心理学について。心理学の一流派に「行動主義」というものがあります。人や動物の行動にのみ着目し、「どのように考えているのか」などは、無視するというやや極端な立場です。

しかしながらかなりの説得力があり、20世紀初頭に生まれ、21世紀になっても一定の評価を受けています。これを応用したものに「行動療法」などがあります。

 

行動主義心理学を自分に

行動主義心理学とは?

行動主義では、「人間が、どのように考えたから → 行動するのか」という考え方を採用しません。そうではなく、「行動Aをした結果 → 良いことが起きれば行動Aが起きることが増え」、「行動Aをした結果 → 悪いことが起きれば行動Aが起きることが減る」というように考えます。

ではそもそも何故行動Aが起きたのか? これについては、特に深く考察しないのです。「ある人が嫌いだと思うから → 悪口を言う」。一般には、人間の心理・自分の気持ちについてこういったように考えがちですが…これも行動主義では異なった考え方をします。

 

「ある人の悪口を言った結果 → 好ましいことが起きたので → また悪口が増える」ということです。ちょっと直感に合いにくいのが行動主義の難点ですが、案外強力な理論です。「好ましいこと」は、全く自覚されないこともあります。これも重要ポイントです。

赤ちゃんなどを見ていると、これといって意味もなく、手足を動かしたり、「あー、うー」などと言葉を発していますね。行動主義心理学では、人間がこのように「何となく行動する」という部分をベースに考えます。

その上で、その「何となく」な行動の後に良いことが起きれば、行動が増える、反対であれば減る。人生はこの繰り返しでもある、ということなんですね。

 

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行動の4つのパターン

行動が増減するのには、パターンが4つあります。

  1. ある行動の後、良いことが起きる
  2. ある行動の後、悪いことが起きる
  3. ある行動の後、良いことが起きない
  4. ある行動の後、悪いことが起きない

1と4では行動が増え、2と3では行動が減ります。

 

子供のしつけで「厳しく叱る」などが「2」に該当し、「悪いことをした後は、好きなお菓子ではなく、あまり好きでないお菓子をあげる」などが「3」に該当します。非常にシンプルですが、この4パターンでかなりの行動が説明できることもあるのです。

このように簡潔なため、行動主義心理学(や、それを応用した療法)というと、主に動物行動の研究や、ペットのしつけなどでも使われます。しかし、人間にも使えますし、「自分自身」にも使えるのです!

 

 

良い行動を増やしてみよう ごほうび編

自分の好ましい行動を、増やすパターンを考えてみましょう。

たとえば、「朝、ランニングをしたいのだけど、どうも続かない」というときは、「ランニングができた日は、走り終えた後に、好きな絵を眺める」などの方法を採ります。好きなスマホのゲームをするのでも構いません。

たったこれだけのことで、ランニングをする頻度は増える傾向になるのです。

 

 

悪い行動を減らしてみよう 嫌なことを起こす編

今度は、自分の悪い行動を減らすパターンです。たとえば、「部下や同僚に、必要以上にきつく当たってしまう」ということで困っている場合、その行動が起きた後に、「自分の嫌なこと」をわざと起こします。

たとえば苦手な食べ物(お腹を壊したりはしないもの)を持ち歩き、それを食べてみるのです。これまた、「そんなことで何か変わるの?」と思いがちですが、傾向として「部下や同僚にきつく当たりすぎる」ことは減るのです。

この方法は専門的には「嫌子を与える」というもので、子どもなど他者に使う(あまりに強い口調で怒る、体罰など)のは倫理的にも好ましくなく、あまり効果も高くないとされます。しかし自分に対して使うなら、倫理的問題はありませんね。

 

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悪い行動を減らしてみよう 良いことを起きなくする編

これは少し工夫と言うか、下準備のいる方法です。何か自分の好きなことで、自分自身で起こしたり起こさなかったりコントロールできるものを見つけます。たとえば、「車の運転をする仕事をしているが、つい乱暴になる時があり、困る」という場合で考えてみましょう。

この場合では、「好きな音楽をかけながら運転する」などの状況をまず作ります。そして、「乱暴な運転をしてしまった」というときに、音楽を消すのです。

ちなみにこれは、子供のしつけなどで言うなら、「よく勉強しているときにはほめて、勉強をサボっているときには、ほめない」などの方法に該当します。

 

 

自然に起きていることで考えてみよう

ここまで読んで、「やはりそんなことで人間の行動が変わるわけがない」と思うかもしれません。しかし、「ほとんど無意識的に起きている行動」で考えてみると、腑に落ちるのではないでしょうか。

たとえば、「ブラックコーヒーを飲むとお腹を壊すので、飲まない」などは、論じるまでもない当然のことのようですが、「ブラックコーヒーを飲むという行動の結果、悪いことが起きたので、その行動が減った」という理屈でしっかり説明できます。

 

行動主義でポイントなのは、「ブラックコーヒーを飲んだこととは無関係に」悪いことが起きても、同じようにブラックコーヒーを飲む行動が減る点です。これが重要です。

全く偶然的に「ブラックコーヒーを飲んだときに限って、嫌いな上司からメールが来る」といったことが続くと、本人が全く意識しないまま、ブラックコーヒーを飲むことが減ってしまうのです。

 

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自分が多く行う行動に、着目してみる

自分がよくやる行動について考えてみましょう。良い行動でも、悪い行動でも構いません。例として、「掃除が好きである」というのも、子供の頃、掃除を手伝った後に両親がよくほめてくれたから、増えたのかもしれないのです。

本人は「自分は生まれつききれい好きだから」などと思うかもしれませんが、そうとは限らないのです。

「掃除が嫌いである」というのも、あまり掃除をしなくても両親や教師などが「何も言わなかった」からかもしれないのです。悪いことが起きなかったので、「部屋などを散らかったままにする」といった行動が増えた、とも解釈できます。

 

 

行動の「単位」を考える

ある程度、行動主義の考えが腑に落ちた人では、疑問が浮かんでくるのではないでしょうか?それは、「行動」をどのような単位で考えれば良いのか?ということです。

「朝、ランニングをする」ということ一つとっても、「走る」ということ以外にも、「着替えをする」「シャワーを浴びる」といったことも含めて考えるのか、「走る」ことのみで考えるのかで、話がだいぶ違ってきます。

 

また、走っているのか歩いているのかとは別に「朝、近場に外出している」など、別の側面からも、とらえられますね。行動主義の考えを使って自分の行動をコントロールしていく場合、意図せざる行動が増えたり減ったりしてしまうこともあります。

たとえば「掃除機をかけた後、良いことが起きるようにする」という手法を使った場合、「電動で、ズー、スーなどと音の出る機械をあやつることが、増える」などということも有りえます。たとえばドライヤーを使う頻度も増えるなど。想定していたよりも広い範囲の行動が増えてしまうわけですね。

このような点は専門的に考えていくと難しいのですが、「行動主義心理学の考えで、自分の生活を少し改善したい」という場合、あまり難しく考えなくても良いでしょう。

 

 

行動主義の考えを採り入れると、悩みすぎなくなる

一般的な(専門的でない)「人の心理についての考え方」では、「自分はなぜ、あのような行動をしようとしてしまうのか?」と自問自答したりして、ときに悩みがちですね。

行動をする「理由」、行動をしない「理由」を自分の心に求めてしまう傾向が強いと、悩んだり、自己評価が低くなったりするのです。「どうしても、資格の勉強に熱が入らない」などのことでも、「自分はどうも強い決意をもてない性格だ」などと考えてしまいがちな人は多いです。

 

しかし、「資格の勉強をした後に、楽しいことが特に起きないから、勉強という行動が増えないのではないか?」と考えれば、気持ちは非常に楽になりますね。

いわば、少し他人事のように「自分のこと」も捉えてしまうのです。となれば解決に向けて採る手法も簡単で、資格の勉強をした後、好きな音楽を聴く、などとすれば良いのです。

 

行動主義心理学の考え方は少し突飛で、シンプル過ぎるので、受け入れがたい面もあるかもしれません。しかし、少し意識してみるだけでも、大分気持ちが変わってくる可能性があります。気持ちと書きましたが、何より、実際に行動が変わってくる期待が持てるのです。

行動主義心理学の創始者といえるワトソンは、「100人の乳児を預かったとすれば(生まれつきの個性にかかわらず)私は、(行動の増減をコントロールして)どのようにでも育てあげることができる」と言いました。

これはさすがに言いすぎかもしれませんが、「自分で自分の行動を変えられる可能性があるんだ」と考えられるのは、恐らく良いことでしょう。