記憶の心理|種類、過程、エビングハウスの忘却曲線について

教育に関わる心理の一つに「記憶」があります。記憶は非常に複雑なしくみで成り立っています。そこで、記憶について詳しく見ていきましょう。

 

記憶の3つの過程

一口に記憶といっても、いろいろな意味があります。たとえば、新しい英単語を覚えるのも”記憶する”といいますし、以前おぼえた英単語を”記憶している”といいますね。

そして、その英単語を使うことで”記憶していた”ことが分かります。このように、「記憶」には3つの過程があり、それぞれ「記銘」「保持」「想起」と呼ばれます。

 

英単語の「remember」がちょうどこの3つの意味を持っていることからも、3つの過程それぞれが重要な要素であることが分かります。

それぞれの過程についてもう少し詳しく見てみましょう。「記銘」とは外部の情報を覚える過程です。この過程のみ障害がでるものとして認知症が有名です。

 

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数年前のことは思い出せるのに、最近のことは思い出せないというのは、「保持」「想起」はできているものの「記銘」ができないため、新しい情報を覚えることができないのです。

「保持」はその名の通り、覚えた情報を保持することです。情報によって、何年も保持できるものもあれば、すぐに忘れてしまうものもあります。

 

普段の生活でも、たとえば自転車の乗り方はずっと覚えていますが、一週間前の夕飯は覚えていない人が多いでしょう。そして、「想起」とは、覚えた情報を再現する過程です。

実は、勉強で大切なのはこの「想起」です。一生懸命テスト範囲の内容を覚えたのに、テスト本番では全然できなかった…という経験がある人もいるのではないでしょうか。

 

これは、「記銘」は頑張ったものの、「想起」の練習をしていなかったためであることが多いです。ただの暗記にしても、覚えた後に問題を解いたり何も見ずに暗唱したりと、「想起」する練習をすることで結果が大きく異なってきます。

ちなみに、想起には記銘した内容をそのまま想起する「再生」と、ある内容について記銘したかどうかを確認する「再認」の二つがあります。それぞれ、記述式問題と選択式問題に対応しています。選択式はできるけど記述は難しい、というのはこういった違いからきています。

 

 

記憶の種類

記憶にはいろいろな種類があります。それぞれ簡単に説明していきます。

 

感覚記憶

体の感覚器官が受け取る記憶で、ほんの一瞬でなくなってしまいます。

 

短期記憶

感覚記憶のうち、意識を向けたものを15秒~30秒ほど保持することです。放っておくと消えてしまいます。

 

長期記憶

短期記憶のうち、一部の情報を何度も反芻することで、長期記憶になります。長い時間保持される、一般的な「記憶」がこれに当たります。

さらに、長期記憶は次のように分類されます。

 

手続き的記憶

習慣的な動作など、体で覚えているような記憶

 

宣言的記憶

言葉やイメージに関する記憶。「心理とは、心のさまざまな作用のことである」というような、言葉や事象についての知識である「意味的記憶」と、「私は10歳のときにアメリカに行った」というような、自分の経験をもとにした記憶である「エピソード記憶」の二つで成り立っています。

 

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このように、記憶にはさまざまな種類があります。特に、普段の生活や勉強には「長期記憶」をいかに増やすかが大切です。

長期記憶を増やすには、短期記憶の反芻(リハーサル、といいます)が重要です。リハーサルには、単純に何度も反芻する「維持リハーサル」と、すでに持っている知識と関連付ける「精緻化リハーサル」があります。

 

特に「精緻化リハーサル」が上手な人は記憶することが得意です。「精緻化リハーサル」には、覚えたい複数の内容を1つのイメージにしてしまう「イメージ化」や、ごろ合わせなどの「関係づけ」などがあります。

複数の情報をまとめて1つにしてしまうため、たくさん暗記ができる、ということです。

 

ちなみに、短期記憶でもこのように「まとめる」作業が有効だと言われています。たとえば、「HIRKOBNAGYOKTOK」という15文字を覚えろ、と言われると難しく感じますが、3文字ずつ区切ると「広島神戸名古屋横浜東京」の頭文字3文字にも見えてきます。

すると、5つの都市を覚えればよくなりますね。さらに、これらはプロ野球のセ・リーグの本拠地ですから、これを知っていると「セ・リーグの本拠地」という1つの情報だけで済みます。

このようにまとめることを「チャンキング」と呼び、短期記憶で覚えられる量は「7±2チャンク」であると言われています。ここでも、まとめ上手は記憶上手、と言えるでしょう。

 

 

エビングハウスの忘却曲線

想起ができなくなることを「忘却」と呼びます。これについて、時間と忘却率の関係を実験的に調べたものが、有名な「エビングハウスの忘却曲線」です。

無意味な単語をいくつも用意し、暗記してからの日数と単語の再現率を調べる実験です。その結果、約30分で半分程度忘れてしまい、そこからは減少率は下がっていき、1~2割程度は比較的長期間保持されるということです。

 

ただし、無意味な単語による実験ですので、普段の生活での記憶にはそこまで厳密には当てはまらないと言われています。それでも、人間は思ったより短時間で忘れてしまう生き物だということが分かります。

これらは、適度に忘れた頃に再び記銘することで、だんだんと忘却するまでの時間が長くなっていくとが分かっています。つまり、適切なタイミングで復習することが大切というわけです。

 

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いかがでしょうか。記憶の仕組みを知ることで、記憶が上手になるはずです。普段から、自分の記憶のしかたや仕組みを意識してみると面白いのではないでしょうか。