多くの人々は学校や会社など集団で行動する機会があると思います。もともと人間は群れを成して作物を育てたり狩りをしたりとお互いに協力して生活していた生き物だけあって、文明の進んだ現代においても集団性・社会性は必須のスキルとなっていることでしょう。
しかし、人が集まり集団を形成すると「集団心理」という心理現象が働いてパフォーマンスが低下したり良くない考えに陥る危険性もあります。そこでこのコラムでは、注意すべき集団心理についてご紹介していこうと思います。
集団(会社や学校)になるとパフォーマンスが低下する心理現象
アイデンティティの低下
人間は環境や他人から影響を受けて自身のアイデンティティを形成し、個性として社会的に評価されたり、またその逆の評価を受けることもあります。
これは、社会性や道徳性を身につけるための大切な傾向と言えますが、昨今の個を尊重する文化の中において集団で行動する機会が多いと自分特有のアイデンティティを持つことなく、他人や集団の考えに同調するだけになってしまうことがあります。
企業や学校などの組織特有の文化や性格というものを感じた方もいると思いますが、古くから受け継がれている文化を重んじている組織では特に構成員の思考が単純になり自分自身の意見を持たなくなるため、組織に所属する際は注意して置かなければなりません。
責任感の低下
これは企業規模で考えると分かりやすいのですが、中小や零細企業のような少人数で運用している場合は一個人に対する責任は重く、一人でも欠ければ会社が傾いてしまう可能性もありますが、一方で数万人規模の大企業の場合は一つのプロジェクトを行う際にも分業制を取って一個人の責任は少人数の会社のそれとは比べ物にならないほど薄まっているはずです。
すると、一個人のパフォーマンスを比較してみると稼働率は当然少人数のほうが高い傾向にあるのですが、積極性においても少人数のほうが高い傾向にあります。
組織構成員が多いと「自分がやらなくても誰かがやってくれる」という心理が自然と湧き起こってくるために積極性が低下して、結果一個人のパフォーマンスは低下してしまいます。
有名な実験結果として、綱引きの人数が多いほど一個人の出すパワーが低下していくというものがあります。これは、構成員全員が同じだけ全力を出していると思い込んでいても出せるパワーが低下してしまうのです。
個人の考えの甘さレベルの問題ではないので、本当に成長したいと思う就活生や社会人は構成人数の少ない会社で修行したほうが良いのではないでしょうか。
匿名性の向上
集団で生活していると道徳性が低下すると言われます。これは、集団の中にいると匿名性が向上して自分自身の行動は集団の責任であると考えるようになるからと言われています。
例えば、信号が赤であるにも関わらず先頭の数人が信号無視をして横断歩道を渡るとそれにつられて後列にいた人も信号無視をしてしまう減少があります。
また、1人で褌一丁で街中を全力疾走しろと言われたら恥ずかしいから避けたいと感じる人が多い一方で、お祭りなど数十人が一斉に褌一丁で走るイベントになると恥ずかしさはなくなります。
人は単独行動をしているときは常に周囲からの視線を感じて個人としての責任感を意識しながら生活をするものですが、集団となると昔から「連帯責任」という言葉があるように一個人の責任の重さは軽くなるため道徳性が弱くなり、匿名性が向上してしまうのです。
感情の伝播
有名な実験で、満員電車で1人が大笑いすると周囲もつられて笑ってしまうというものがあります。これは、人間は如何に感情が伝播しやすいかを分かりやすく示した現象で、集団にいると理性的ではなくなります。
ゆえに、周囲がパニック状態に陥ると自分も普段は冷静でいられるレベルの事象であってもパニック状態に陥り冷静な判断ができなくなってしまいます。
排他的な思考へ
人数が少ないと一人でも欠けてしまえば問題となるため、多少性格が合わなくても上手くやっていく努力をします。しかし、集団ともなると少しでも自分たちの文化や性格に反するものがいれば、排除するために協力関係を結び、排他的な行動を取るようになります。
これは、いわゆる「いじめ」と言われるもので人間以外にも多くの動物で見られる行為となります。「いじめ」は社会的な問題として多くのメディアで取り上げられており、誰が悪いかの論争が度々行われていますが、これは群れをなす動物の多くに当てはまる心理現象のため、根本的な解決には環境を変える必要があるわけです。
最近になってようやく個を尊重する文化が芽生え始めましたが、日本特有の同調文化のなかではなかなか「いじめ」をなくすことはできないのではないでしょうか。
まとめ
集団心理はどれだけ個人の意思が強くても多少なりとも影響を受けてしまいます。特に集団をまとめるリーダーは如何に集団に与える影響が大きいかを自覚して指揮を執る必要があり、トップによって良くも悪くも集団の価値が作られていきます。