心理の中には、集団に働く心理というものがあります。学級に始まり、会社などの組織に至るまで、いろいろな集団の中で生活している以上、集団に関する心理について知っておくことも大切です。いくつか紹介していきます。
会社や学校など集団に働く心理
社会的促進
たとえば食事をするとき、一人で食べるよりも誰かと食べた方が楽しく、食も進みます。このような経験は誰しもしたことがあるかと思います。
このように、周りに人がいることによって、一人あたりの作業量が増大することを「社会的促進」と呼びます。
社会的抑制
特に単純な課題や作業のときに見られます。学校などで、同じ課題を何人かのグループで一斉にやるときなどにも効果があります。
これは、自分の力を見せたいという気持ちや、他人からの評価が気になる、といった心理により効果が現れていると言われています。一方で、複雑な課題や不得意な課題になると、集団で行うことで作業量が減少してしまう「社会的抑制」というものもあります。
これは、複雑がゆえに失敗することを恐れてしまうためだと言われています。
集団の中のある一人に発表などを行わせる際は、社会的抑制が起こらないように安心感を与えてあげることが大切になります。
社会的手抜き
さらに、集団特有の心理として「社会的手抜き」と呼ばれるものもあります。これは、集団を作るメンバーの人数が多ければ多いほど、一人あたりの作業量が減少する、というものです。
たしかに、自分があまりにもたくさんの集団の一員だったとしたら、「多少サボってもばれないだろう…」とか「周りの人も手を抜いているに違いない…」などと考えてしまうのではないでしょうか。
これを防ぐためには、個々が作業をするような場面を作ってあげる必要があります。たとえば、グループディスカッションを行うときに、一人ひとり指名する場面を作ることで、手抜きをできないようにすることなどがあげられます。
「社会的ジレンマ」と「囚人のジレンマ」
「囚人のジレンマ」という言葉を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか、これは、隔離された2人の囚人に対して、
- ①両者とも黙秘したらお互いに2年ずつの刑を与える。
- ②一方のみ自白したら、自白したものは釈放し、黙秘したものは10年の刑を与える。
- ③両者とも自白したらお互いに5年ずつの刑を与える。
という条件を与え、囚人の判断を考えるものです。
刑の年数だけで見れば、①が最適のように思えます。しかし、双方の囚人の立場になってみると、黙秘した場合は2年もしくは10年の刑となり、自白した場合は0年もしくは5年の刑となるため、自白した方が特をすることになります。
そのため、どちらも自白を選択してしまう、という理論です。このように、個人個人にとって最適な選択が、集団全体でみると最適ではない、という状態を「社会的ジレンマ」と呼びます。
身近な例では環境問題が挙げられます。個人個人が利便性を重視すると、廃棄物の増加やエネルギーの枯渇を促進し、環境に悪影響を与えることになってしまいます。
かといって、先ほどの「社会的手抜き」にもみられるように、自分一人が環境を意識して不便な生活を選ぶかというと、そうではないことがほとんどでしょう。
こういった「社会的ジレンマ」を抑制し、集団全体の利益を追求していくためには、協力行動には報酬を与え、非協力的行動には制裁を与えることで、各個人が「協力行動をとる方が合理的である」と考えられるようにすることが大切です。
なお、これを「選択的誘因」と呼びます。
リーダーシップの心理
集団にはリーダーが必要不可欠です。学級でいえば教師がこれにあたりますし、会社でいえば社長をリーダーとする大きな集団や、部長、課長をリーダーとする小さな集団まで複雑な集団が重なり合ったものとみることができます。
リーダーには、集団を維持し、目標達成のために個人や集団に影響を与えていく力が必要です。
これが俗にいう「リーダーシップ」というものになります。このリーダーシップについて、「民主的」「専制的」「自由放任的」の3つのタイプのリーダーの行動と集団の生産性や成員の態度などを比較した研究があります。
「民主的」なリーダー
結論からいうと、「民主的」なリーダーが最も強力なリーダーシップを発揮することが分かっています。民主的なリーダーのもとでは、成員たちが話し合うことで集団の方針や作業の手順をけってします。
リーダーはその意見を聞き、適切な助言を与えます。すると、成員のモチベーションは「民主的」リーダーの場合が最も高く、生産性も良いという結果が出ました。
「専制的」リーダー
一方で、「専制的」リーダーの場合、集団の方針などをすべてリーダーが決めてしまい、成員に命令をして作業を行わせます。
そのため、成員に嫌われやすくモチベーションが低いという点と、短期的な生産性こそ優れていたものの、リーダーがいなくなると一気に生産性が下がるという現象が見られました。
「自由放任型」リーダー
さらに、「自由放任型」リーダーの場合、命令等は一切しません。成員たちはばらばらに行動するため、生産性が低く、すぐに口論したりするなどしてモチベーションも上がらない、という結果になりました。
このように、リーダーは成員と話し合い、コンセンサスを得たうえで自発的に成員が取り組めるような環境を作ることが大切だということが分かります。
このように、個人と集団では心理が異なってきます。うまく活用すれば、集団を導いていくよきリーダーになれることでしょう。