和紙の歴史と洋紙との違いとは?

先日、TVで流行りの散歩番組で、日本橋にある和紙の専門店を訪れて紹介をしていましたが、流石に歴史がある街の歴史ある商材だけあって、短い時間に手早く紹介されたのにもかかわらず、時が止まるような深い内容となっており強い余韻が残りました。

番組中に紹介された数々の和紙を使った現代美術的な作品の素晴らしさもさることながら、端々に映し出された映像から垣間見える、機械ひ漉き紙とは違った迫力ある手漉き和紙の魅力について探ってみました。

 

和紙の歴史

日本の和紙の起源

紙の起源は、古代エジプトのパピルスが有名ですが、現在の紙の原型ができたのは、紀元前2世紀の中国、漢の時代です。日本の最古の記録は、610年頃の聖徳太子が摂政の時代です。

朝鮮から製紙の方法が伝わり、仏教を重んじた聖徳太子が写経に用いる紙を必要としたため、日本在来の楮(こうぞ)を使った製紙技術の改良が行われ、沢山作られるようになりました。

やはり聖徳太子は凄い人で、紙幣の肖像画にぴったりな方だったようです。

 

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中世に発展した和紙

平安時代に入ると、宮廷用紙を漉く研究を行う院もでき地方の製紙にも指導的な役割を果たしていました。貴族に愛された優美な紙は、海外の紙よりも上質で、唐に輸出されていたほどです

このころから日本独自の、物を作る技術の高さがうかがえます。

やがて地方産紙の勢いが増し、鎌倉・室町の時代には、滑らかでペン書きもできる宣教師に人気の紙や、襖や障子紙、雨傘用紙など、庶民の日常生活に必要な多彩な紙がつくられるようになりました。

 

江戸文化は和紙の最盛期

江戸時代には、経済力のある町人による紙の取引も盛んになり、江戸文学の書物用の紙や浮世絵版画のための紙の需要は、紙の加工技術を発達させました。

江戸の文化が花開いたこの時代は、和紙の全盛期とも言えます。

 

明治~現代 和紙の伝統工芸品化と再評価

明治時代に入ると、印刷に適した実用的な機会漉きの洋紙が和紙にとってかわり、和紙は日本の伝統工芸品として漉かれることが多くなりました。

しかし近年では、地球環境にやさしく、優美さや耐久性、強靭性を兼ね備えた和紙が、世界的に再評価されています。

 

 

洋紙と和紙の違い

奈良の正倉院に残る、耐久年数が1000年の和紙

洋紙は、江戸時代以降に日本に入ってきた、原材料を木材パルプとする機械生産の紙、として和紙と区別をしています。和紙と洋紙では、まず耐久性に大きな違いがあります。

洋紙は原料に木材パルプや多くの薬品を使って作られた酸性の紙のため、100年もたてば黄ばみボロボロになってしまいますが、中性の和紙の耐久年数は1000年です。

正倉院には、奈良時代の大宝2年(702年)の日付の書物が、当時と変わらず残されています。

 

 

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和紙と洋紙の構造上の違い

もう少し詳しく見ていくと、洋紙と和紙の構造上の違いは、和紙が長い繊維を絡めているのに対し、洋紙は短い繊維を敷き詰めいている状態の違いがあげられます。

羊皮紙(動物の皮を加工した物)の歴史がある西洋では、インクによる印刷技術の発達と共に、印刷に適した木材パルプを原料とした機械漉き紙が普及しました。

一方日本では、墨を使って書く際のにじみや吸いつきが好まれたり、繊維の絡みから生じる多孔性から、障子紙のように夏は涼しく冬は暖かく湿気の調節をし、光が当たると絡み合った繊維に乱反射し、美しい灯りの漏れ具合など透光性にも優れるなど、日本の風土に合った発達をしてきました。

 

 

和紙の魅力、良いところ

 

和紙の丈夫さの秘密

和紙の丈夫さの秘密は、天然の長い繊維を漉くことによって複雑に絡ませ、強靭で保存性の高い構造となっていることです。「流し漉き(ながしすき)」という手法によって丈夫にできます。

紙漉きにトロロアオイやノリウツギなどの植物から採取される透明の粘液を混入する手法です。そのため、何度折りたたみを繰り返しても破れにくい強度も持っています。

またパルプには、光より繊維を劣化させるリグニンという物質が多く含まれますが、和紙には含まれていません。新聞紙を日に当てていると黄色く変色するのは、リグニンの作用です。

 

 

紫外線で白みを増す和紙

せっかく張り直した障子やふすま紙が黄ばんでしまう…。紙は洋紙であれ和紙であれ、紫外線にあたれば黄ばむものだと思っていましたが、どうやらそうでもないようです。

現在ほとんどの白い紙は、薬品で塩素漂白がされています。そのため紙をひいた直後は紙の白さが鮮やかになっても、紫外線により黄ばんでしまいます。

塩素漂白をしない場合は、紙をひいた直後は鮮やかな白でないものの、紫外線により逆に白みを増していくのです。品質の良い和紙は、時を経て美しくなっていくものなのですね。

 

 

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ユネスコが無形文化遺産に登録した、日本の手漉き和紙技術

ユネスコが「和紙 日本の手漉き和紙技術」を無形文化遺産に登録したのは、原料を楮(こうぞ)のみとした「流し漉き」の技術です。

原料となる楮の木の茶色い部分をはぎ、白い部分のみ使用するという皮はぎから始まり、長時間煮て天然水にさらし、繊維の色素を除き、棒でたたいて柔らかくしていく 叩解(こうかい)、天然植物の粘着成分を使用した紙漉きまでの、とても手間のかかる工程を経た和紙の美意識と耐久性、職人技術が認められたからです。

バチカンの世界遺産であるシスティーナ礼拝堂にあるミケランジェロによる壁画「最後の審判」の絵の修復には、日本の耐久性ある和紙が活用されています。

 

 

和紙の種類の特徴

和紙の種類は大きく分けて、「楮紙(こうぞし)」、「三椏紙(みつまたし)」、「雁皮紙(がんぴし)」の3種類があります。それぞれ産地や製造法によってさまざまな和紙が生み出されています。

 

楮紙(こうぞし)

楮(こうぞ)は、クワ科の落葉低木。楮を原料にした楮紙は強度に優れ、障子や公文書、絵画、書道に多く使用されています。

 

三椏紙(みつまたし)

三椏(みつまた)はジンチョウゲ科の落葉低木植物。三椏を原料にして、薄くて吸水性に優れているため、紙幣や印刷、エッチング、はがき、製本になどに使われています。

 

雁皮紙(がんぴし)

雁皮(がんぴ)はジンチョウゲ科の落葉低木。雁皮は栽培が難しく、生産量は少ない和紙です。虫害に強く耐久性があり、印刷、日本画、写経などに使われています。

手漉き和紙の世界は、日本人でも紙質にこだわる人にとっては不可欠な、特殊でマニアックな世界です。それを無形文化財と認めたユネスコの目の確かさは流石と言えます。

私たち現代人の衣食住はかなり西洋化していますが、和風建築の建物に灯る柔らかな和紙を使った灯りや障子の白さ、木のぬくもりに吸い込まれるような魅力を感じてしまうのは、私たちが長年和紙と文化をともにしてきた日本人だからでしょうか。